「きょうだい児」という言葉を、SNSやママ友との会話ではじめて聞いた保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。障がいのあるお子さまの療育に追われるなかで、もう一人のお子さまへの関わりが後回しになっていないか——ふとそんな不安がよぎる瞬間は、珍しいことではありません。
きょうだい児とは、障がいや医療的ケアが必要なきょうだいと共に育つ子どもたちのことです。その子たちが抱える心の揺れは、保護者が気づきにくいかたちで、じわじわと積み重なることがあります。
この記事では、きょうだい児の定義とヤングケアラーとの違い、ライフステージ別の悩みの変化、そして保護者が今日から始められる具体的なケアまでを、放課後等デイサービス・児童発達支援を運営するナーシングの療育現場からの知見とともにお伝えします。
きょうだい児の定義とヤングケアラーとの違い
きょうだい児とは、障がいのあるお子さまの兄弟姉妹のことです。この言葉が「ひらがな」で書かれるのには、理由があります。
きょうだい児の意味とひらがな表記の理由
漢字で「兄弟」と書くと、男性のみを指す印象を与えかねません。ひらがな表記にすることで、兄・弟・姉・妹という性別や続柄を問わず、すべての兄弟姉妹を包括したいという意図が込められています。誰一人取り残さない——その想いを、言葉の表記そのものに宿しているのです。
きょうだい児はどのくらいいるのか
きょうだい児の正確な人数を示す公式統計は、現時点では存在しません。ただ、令和5年版障害者白書(内閣府)によれば、身体・知的・精神を合わせた障がいのある方は日本全体で約1,160万人、国民の約9.2%にのぼります。障がいのある方が一人いれば、その兄弟姉妹全員がきょうだい児にあたるため、社会全体でみると決して少ない数ではありません。
ヤングケアラーとの共通点と相違点
ヤングケアラーとは、大人が担うべき家族のケアを日常的に引き受けている18歳未満の子どもを指します(こども家庭庁)。きょうだい児とは定義の根拠が異なりますが、「家族の状況が子ども自身の心や生活に直結しやすい」という点では重なります。
厚生労働省・文部科学省が2021年に公表した調査では、中学2年生の約5.7%が「世話をしている家族がいる」と回答しており、きょうだい児のなかにヤングケアラーに該当するお子さまが含まれるケースも実際にあります。
きょうだい児が成長の中で抱える悩みと心の変化
きょうだい児が感じる悩みは、ライフステージによって大きく姿を変えます。幼少期の寂しさや我慢に始まり、学齢期には罪悪感と孤立感が芽生え、青年期・成人期になると将来への具体的な不安へと変わっていく——その変化を知っておくだけで、「うちの子が今どんな気持ちでいるか」を想像しやすくなります。
内閣府「令和5年度 障害者白書」のデータと厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」の平均児童数をもとに推計すると、日本には約814万人のきょうだい児がいるとされており(推計値)、その心理的サポートは社会的にも急務とされています。
幼少期に感じる寂しさと我慢
障がいのあるきょうだいのケアに親御さんの時間が集中しがちな家庭では、幼いきょうだい児が「自分は我慢しなければ」という空気を敏感に感じとることがあります。送迎の待ち時間や夜泣きへの対応中、じっと静かに待ち続ける姿はその典型です。寂しさを感じること自体は、ごく自然な心の反応です。
学齢期に広がる罪悪感と孤立感
小学生頃になると、友人との比較や学校での経験を通じて「自分だけ違う」という感覚が芽生えやすくなります。「きょうだいのことを恥ずかしいと思ってしまった」という罪悪感を覚えるお子さまも少なくありません。こうした複雑な感情は、多くのきょうだい児が経験する、成長の一過程です。
青年期・成人期の将来への不安
高校生以降になると、「親亡き後、自分が面倒をみなければならないか」「結婚や就職に影響するか」という不安が浮かびやすくなります。公益財団法人 国際障害者年記念 ナイスハート基金「障害のある人のきょうだいへの調査報告書」(調査対象424名)でも、大人のきょうだいが感じる困りごとのトップは「将来への不安」とされています。
こうした不安を持つこと自体は珍しくありません。一人で抱え込まず、きょうだい支援の相談窓口につながる道があることも、ぜひ頭の片隅に置いておいてください。
きょうだい児が育む共感力と強さ
困難な経験を重ねる中で、深い共感力や多様性への理解、困難に立ち向かうレジリエンスを育んでいくきょうだい児は多くいます。前述のナイスハート基金の報告書でも、成人後に「視野や関心が広がった」とプラスに捉えられるようになった人が多いと記されています。大変さの中にも、豊かな内面の成長があります。
保護者が今日からできるケアと頼れる支援先
保護者が今日からできるケアは、大きく3つあります。きょうだい児との一対一の時間を意識して作ること、気持ちに寄り添う声かけを日常に取り入れること、外部の支援を上手に活用することの3つです。どれも、特別な準備は必要ありません。
一対一の時間を意識して作る工夫
「まずは一日10分」という現実的な目標から始めてみましょう。登園前の準備中、入浴中、おやすみ前のひとときなど、日常のすき間にきょうだい児だけと向き合う時間を意識的に設けるだけで、子どもの安心感は変わります。
放課後等デイサービスを利用している場合、送り出した後の時間がそのまま余裕になります。その時間をきょうだい児との散歩や買い物に充てているご家族も、実際に少なくありません。
気持ちに寄り添う声かけの具体例
子どもの支援に関わる専門家の間では、きょうだい児への声かけは「評価」より「共感」が先だと言われています。「よく頑張ってるね」「今日はどんな一日だった?」という一言が、子どもの気持ちを受け止める入口になります。
一方で、「お兄ちゃんだから我慢して」という言い回しは、できる限りで避けることをお勧めします。役割を求める言葉は、きょうだい児に過度な責任感を植えつけ、感情を抑え込む原因になることがあります。
【画像挿入 種類: 図表(テキスト図解) 内容: 「推奨する声かけ例」と「避けたい言い回し」を左右で比較した図 目的: 読者が実践しやすいよう、言葉の具体例を視覚的に整理する alt属性テキスト案: きょうだい児への声かけ比較表。推奨例「よく頑張ってるね」と避けたい表現「お兄ちゃんだから我慢して」を並べた図解 】
放課後等デイサービスがもたらす家族全体の好循環
放課後等デイサービスの利用は、障害のあるお子さまの療育だけでなく、保護者様の精神的な余裕にもつながります。こうした一時的な休息を生み出す効果はレスパイトと呼ばれ、家族全体の関係を豊かにする好循環を生みます。
ナーシングをご利用いただく保護者様から、「送り出した後、久しぶりにきょうだい児とゆっくり話せた」という声が届いています。障害のあるお子さまの成長と、ご家族全員の笑顔が重なる瞬間を、私たちは大切にしています。
きょうだい児を支える支援団体と相談窓口
きょうだい児を専門に支援する団体が、全国にいくつか存在します。
NPO法人しぶたねは、主に病気や障がいのある子どものきょうだいを支援する草分け的な団体です。ワークショップや小冊子の配布、支援者向け研修などを通じて活動しており、保護者にとっても参考になる情報が豊富です。
Sibkoto(シブコト)は、障害のある方のきょうだいが体験談や本音を投稿・共有できる情報サイトで、当事者同士がつながれる場として機能しています。
きょうだい支援を広める会(SiblingJapan)は、2004年から支援者向けの研修や啓発活動を続けてきた団体です。まずは各団体のウェブサイトにアクセスして、情報収集から始めてみてください。
きょうだい児に関するよくある質問
日々の暮らしのなかで感じやすい問いを5つ取り上げ、端的にお答えします。
きょうだい児は日本にどのくらいいますか?
きょうだい児の正確な人数は公的統計では把握されていません。令和6年版障害者白書(内閣府、2024年)に掲載された2016年調査によると、18歳未満の在宅身体障害のあるお子さまは約6.8万人、在宅知的障害のあるお子さまは約21.4万人とされています。これらのきょうだいを合わせると数十万人規模、障害のある方全体(約1,175万人)から換算すると数百万人規模にのぼるとも推計されており、実態はまだ十分に把握されていないのが現状です。
きょうだいの障がいを子どもにどう伝えますか?
お子さまの年齢に合わせた言葉で、ありのままを伝えることが基本です。幼児期は「苦手なことがある」と短く、小学生には特性の名称も添えて、中学生以降は対話形式で伝えるのが目安になります。ナーシングのスタッフは「正解を押しつけるより一緒に考える姿勢が、お子さまの安心につながる」と保護者様にお伝えしています。
きょうだい児の結婚や就職への影響はありますか?
きょうだい児であることが直接的に結婚や就職を妨げるわけではありませんが、将来への不安を抱えるケースがあることは事実です。支援団体への相談やコミュニティへの参加が不安を和らげる力になります。同じ境遇を持つ仲間とつながることで、一人で抱え込まずに前へ進める方が多くいらっしゃいます。
きょうだい児本人が相談できる場所はありますか?
NPO法人しぶたね、Sibkoto(シブコト)、きょうだい支援を広める会など、きょうだい児本人が集まるコミュニティや相談窓口が全国にあります。各団体はオンラインでの交流会や相談を受け付けており、遠方の方でも参加しやすい環境が整っています。まずは気軽に検索してみることが、心の余裕を取り戻す第一歩になるでしょう。
sibtane.com
sibkoto.org
siblingjp.org
【画像挿入 種類: 一覧図 内容: きょうだい児向けの主な相談先(しぶたね・Sibkoto・きょうだい支援を広める会)の概要と利用方法の一覧 目的: 具体的な相談先を視覚的に整理し、読者がすぐに行動に移しやすくする alt属性テキスト案: きょうだい児が相談できる支援団体の一覧(しぶたね・Sibkoto・きょうだい支援を広める会)の特徴と利用方法 】
デイサービスの利用はきょうだい児にも役立ちますか?
放課後等デイサービスの利用は、保護者様の時間的・精神的な余裕を生み出すことで、きょうだい児との関わりの質を高める効果があります。ナーシングでは、サービス利用をきっかけに保護者様がきょうだい児とゆっくり向き合える時間を確保できたというご報告を複数いただいており、支援が家族全体の好循環を生む場面を実感しています。
まとめ
この記事をお読みいただき、ありがとうございました。きょうだい児とは障がいのあるきょうだいと共に育つ子どもたちのことであり、その悩みはライフステージごとに変化します。保護者が今日からできるケアを知り、一歩を踏み出すことが、お子さまの安心と家族全体の笑顔につながります。この記事の重要なポイントを改めて整理します。
きょうだい児への関わりに「正解」はありません。大切なのは、子どもの気持ちに気づこうとする保護者の姿勢です。NPO法人しぶたねやSibkoto(シブコト)など、相談できる支援団体も全国に存在します。一人で抱え込まず、周囲のサポートを上手に活用しながら、ご家族みなさまが安心して過ごせる毎日を築いていただけることを願っています。
